おひとりさまでも大丈夫!?

42歳独身会社員女。ちょっと寂しい毎日をつづります。

ホワイトデーの出来事

 

 

チョコはばら撒いたりする質ではないのに。

バレンタインに山瀬さんに渡したチョコレートのお返しが返ってきた。今日は山瀬さんの会社の広告の納品日だった。ホワイトデーとたまたま重なったから、今日はもしかしたら何かあるかもしれないと思って、一昨日はネイルに行って、昨日は家で一番高いパックとボディークリームでケアをして、今日はメイクから下着まで気合を入れてきた。馬鹿みたいだとわかりつつ、もしかして、に囚われて、ここ二週間くらいを今日のために過ごしてきた様に思う。

なのに。いや、"やっぱり"。私の妄想は、現実を前にバラバラに砕け散った。納品に行った時からもう心臓がばたばたと暴れていて、無事受領書をもらった時もいつもの仕事の様な達成感などなく、ずっと視界の隅の山瀬さんの動きを見張っていた。帰り際に呼び止められた時は頭の隅で「今、ここで?!あなたの上司と、私の部下のいる前で?!」なんて考えていたから、少し不機嫌そうに振り向いてしまったと思う。だってもうあの時には、今日起こると妄想していた出来事がまるで必然の様に思えていたから。

山瀬さんは笑顔で、見飽きた小さな品のいい紙袋を私に差し出しながら「お世話になりました。これ、お返しです。」と言った。

山瀬さんの笑顔を見て、全てを悟った。好きな人の笑った顔を見て喜ばない人間はいないと思っていたが、あんな張り付いた様な笑顔はもう見たくなかった。社交辞令と同じだ。返された品も、山瀬さんの気持ちを表している様だった。高級ではあるけど、もはや使い古されて大衆化したブランドのチョコレート。会社の女の子達からばら撒からたチョコレートに、これを送っておけばいいだろ、みたいな。しかも、チョコレートにチョコレート返す、って。何がいいか考える時間すら、私には取ってくれなかったのだ。私は散々考えた。手作りはやっぱりまだ知り合ったばかりだし、派手さは無いけど品のいい小物を持っている山瀬さんにふさわしいものを、と。ぐるぐるぐるぐる考えてようやく、パリの一流店で認められた日本人ショコラティエが地元・京都で1店舗だけ出しているお店の限定チョコレートを取り寄せてまで買ったのに。

こんな日に限って仕事は定時に終わり、帰って5時間は経つというのに、私はまだ化粧すら落とせずにいる。

私は。つくづく。

本当、バカみたいだ。